ばかは慣性に支配されている
ばかは頭を使わない。そしてばかはたいてい畑にいる。彼は耕すのをやめない。ところがどうしたことか、いつもは柔らかい土が今日はやけに硬い。農具の鈍い音がじんと腕に響く。だが彼はばかだから、鋤くのを決してやめなかった。しばらくすると、彼は辺り一面をすっかり耕し尽くしてしまっていた。
ばかは頭を使わない。そしてばかはたいてい森にいる。彼は木を伐るのをやめない。ところがどうしたことか、いつもはうまくいく伐採が今日は木が思ったように倒れない。倒れた木がまた別の木に引っかかる。おまけに腹も痛くなってきた。だが彼はばかだから、木を伐るのを決してやめなかった。うんうん唸りながらも、しばらくすると、彼は必要なだけの木を伐ってしまっていた。
彼はいつも仕事をしている。仕事の合間には、歌を歌ったり、相撲を取ったりして遊んでいる。彼はいつも何かしているか、眠っているかである。ほんとうにつまるところ彼に金貨は要らないらしい。
賢い人には慣性がはたらいていない
賢い人は頭を使う。そして賢い人はたいてい家の中にいる。彼は金貨を数え上げることをやめない。ところがどうしたことか、いつもは何ともない背中が今日はやけに痒い。そうして金貨を数え上げることをやめてしまった。彼は賢い人だから、金貨を一枚貸し付ける代わりに金貨を数え上げさせることにした。しばらくすると、貸し付けた金貨は二枚になって返された。ばかは農具の手入れをしていた。
賢い人は頭を使う。そして賢い人はたいてい高いところにいる。彼はおしゃべりすることをやめない。ところがどうしたことか、いつもは盛り上がるおしゃべりが今日はやけに白けてしまう。そうして彼は気を悪くしておしゃべりをやめてしまった。彼は賢い人だから、金貨を与えて、彼の自慢話をよく聞かせようとした。しばらくすると、彼の話を本当の意味でよく聞く者はいなくなった。ばかは疲れて眠っていた。
彼はいかに働かないで済むかを、常に考えていた。頭を使っていた。金貨で村人を使役して、金貨で余暇(いや彼は常に退屈していた)を過ごした。彼はいつも金貨を使っているか、おしゃべりをしているかである。
ばかはずっと手を動かし続けていて、決してやめない。学力は金貨ではない。